債権譲渡について

はじめに

今週は、民法の債権譲渡に関する事例問題を扱う機会に恵まれたので、この機会を利用して再度整理することにしました。

債権譲渡について

債権譲渡とは、債権の同一性を変えることなく、債権を法律行為(契約または遺言)によって移転することです*1債権の同一性を変えることなく帰属主体を変更することをその内容としています。

債権譲渡は、不良債権処理集合債権譲渡担保のほか、担保付債権を小口化・証券化して商品として流通させるために行われます*2

債権譲渡の関係当事者としては、債権の譲渡人債権の譲受人債務者が挙げられます。そして、債権譲渡がなされた場合、債権の譲受人が債務者に対してその債務の履行を請求することになりますが、請求原因事実として主張するべき事実は、一般的な形で提示すれば、次のようになります。

  1. 譲受債権の発生原因事実
  2. 譲受債権の取得原因事実

なお、上記に加えて、契約によっては、3. 弁済期の到来 をも主張する必要があります。すなわち、譲受債権の発生原因事実の主張の際に、弁済期の合意の存在が明らかになる場合です。例えば、譲受債権が消費貸借契約に基づく貸金債権であった場合には、その請求は賃金返還請求にほかならないため、1, 2 の他に、消費貸借契約で定められた返還時期が到来したとの事実を主張することが必要になります*3

債権の譲受人が主張する請求原因に対して、債務者が主張し得る抗弁として、譲渡禁止特約(民466条2項)、債務者対抗要件(民467条1項)、弁済その他の譲渡人に対して生じた事由(民466条3項)などがあります。

また、債務者としては、債権が二重に譲渡されたことを前提として、三者に対する対抗要件(民467条2項)、三者対抗要件具備による債権喪失受領権者としての外観を有する者に対する弁済(民478条)などの抗弁を主張することが考えられます。

これまでは、債権譲渡に関連する論点の全体像が見えていませんでしたが、要件事実論を学ぶことで論点が抽出できたと感じております。以下、各抗弁について見ていきます。

譲渡制限特約

債権には原則として譲渡性があり(民法466条1項本文、債権者・債務者間で債権の譲渡を禁止・制限する旨の特約(=譲渡制限特約)を締結したときであっても、「債権の譲渡は、その効力を妨げられない」とされています(同条2項)。つまり、特約があるにもかかわらず行われた債権譲渡も有効です。

その一方で、改正法は、弁済すべきことが固定されることについて債務者が有する利益にも一定の配慮をしています*4。すなわち、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができるとしています(同条3項)。

債務者の抗弁

債務者は、譲渡制限特約による履行拒絶の抗弁として、次のように主張することになります。

  1. 譲渡人・債務者間で譲渡制限特約が締結されたこと
  2. 譲受人が債権を譲り受けた際に、譲渡制限特約の存在につき悪意又は知らなかったことにつき重過失であったこと*5
  3. 譲渡債権に基づく債務の履行を拒絶する旨の権利主張*6
譲受人の再抗弁①

もっとも、譲受人が悪意・重過失であったとしても、債務者に対して相当の期間を定めて譲渡人への履行催告したのに、債務者がその期間内に履行しないときは、債務者は譲渡制限特約をもって譲受人に対抗することができなくなり、譲受人からの履行請求を拒むことはできません(同条4項)。

ここで、債務者の立場から考えてみると、債務者は「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」を譲受人に対抗できることになります(468条1項)。時的要素として"対抗要件具備時"とありますが、468条2項で466条4項の場合は、条文の読み替えが必要になります。すなわち、「対抗要件具備時」までではなく、466条4項に規定する「相当の期間を経過した時」となります。

その結果、債務者は、譲受人から「譲渡人への履行」を催告された場合、「相当の期間を経過した時」までに譲渡人に対して生じた事由(弁済など)を対抗できることになります。例えば、弁済を催告後の相当の期間内になしえなかった場合、かかる抗弁は主張できないことになります。

債務者の譲渡制限特約による履行拒絶の抗弁に対し、譲受人は再抗弁として、以下の事実を主張立証することができます。

  1. 譲受人が債務者に対して譲渡人への履行催告したこと
  2. 上記の催告後相当期間が経過したこと
譲受人の再抗弁②

譲渡制限特約の目的は、もっぱら債務者の利益を保護するためのものであるから、譲渡制限の意思表示がされた場合であっても、債務者は譲渡を承諾することができ、その承諾は、譲渡制限特約に基づく抗弁を放棄する意思表示としての意味を有すると解される。 

したがって、債務者の譲渡制限特約による履行拒絶の抗弁に対し、譲受人は再抗弁として、以下の事実を主張立証することができます。

  1. 債務者が債権譲渡につき譲渡人又は譲受人に対し承諾の意思表示をしたこと

この承諾の時期は、債権譲渡の前後を問いません。事後的であっても、債務者が債権譲渡を承諾すれば,譲渡時に遡って債権譲渡は有効になります(最判昭和52年3月17日民集31巻2号308頁)。

  • 差押えとの関係について(承諾後の譲渡債権の差押え)
    判例は、債務者の承諾後に譲渡債権が差し押さえられた事案において、「譲渡に際し債権者から債務者に対し確定日付のある譲渡通知がされている限り、債務者は、右承諾以後において債権を差し押さえ転付命令を受けた第三者に対しても、右債権譲渡が有効であることをもって対抗することができるものと解するのが相当であり、右承諾に際し改めて確定日付のある証書をもってする債権者からの譲渡通知又は債務者の承諾を要しないというべきである」と判示しました(最判昭和昭和52年3月17日民集31巻2号308頁)。これにより、債務者の承諾によって、債権譲渡が譲渡時にさかのぼって有効となるのであれば、その対抗力も、債務者の承諾の時からではなく、確定日付のある通知が債務者に到達した時にさかのぼって生じることを認めるものであると解されます。
  • 差押えとの関係について(承諾前の譲渡債権の差押え)
    判例は、債務者の承諾前に譲渡債権が差し押さえられた事案について、「…債権
    譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法 116 条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできないと解するのが相当である」としています(最判平成9年6月5日民集51巻5号2053頁)。
    なお、116 条但書によって制限されるのは、対抗力の遡及効ではなく、債権譲渡
    自体の遡及効であると解されます。なぜなれば、116 条において遡及効が問題となるのは無権代理行為そのものであり、これに照らして考えると、譲渡自体の遡及効を問題とすべきであるからです。

債務者対抗要件

譲受人の請求原因に対し、債務者は、債務者対抗要件の抗弁(民467条1項)として、次のように権利主張することができる。

  1. 債権譲渡につき、譲渡人が譲渡の通知をし又は債務者が承諾しない限り譲受人を債権者とは認めない。

債務者対抗要件の主張立証責任について権利抗弁説*7に立つと、譲受人が請求原因で債権債務の発生原因事実を主張すると、債務者が正当な利益を有する第三者であることも現れるから、ここでは権利主張のみを適示すれば足りる。

対抗要件の具備は、債権譲渡登記によることも可能です(債権譲渡特例法4条)。なお、債権譲渡登記の譲受人が債務者対抗要件を具備するためには、債権の譲渡及びその登記をしたことにつき、譲渡人又は譲受人が債務者に対して登記事項証明書を交付して通知するか、債務者が承諾する必要があります(同条第2項)。

弁済その他の譲渡人に対して生じた事由

債権譲渡は、債権の同一性を変えることなく、その帰属主体を変更するものなので、債権に付着していた抗弁事由は、譲渡後もそのまま存続することになります。

民法468条1項の「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」として、同時履行の抗弁権留置権といった抗弁権に限らず、弁済期の猶予弁済等による債権の全部または一部の消滅、債権を発生させた契約の無効取消し解除など、一切の事由が含まれます。

なお、解除や取消しそれ自体は債権譲渡通知後でも、それ以前にその原因が成立していれば468条1項が適用されると考えられています*8

解除について

判例は、請負契約において、仕事の未完成部分の請負報酬債権が譲渡された後、請負人の債務不履行を理由に注文者が契約を解除した事案で、債権譲渡時にすでに契約解除に至るべき原因が存在していたときは改正民法468条1項*9の抗弁事由に当たることを認めていました(最判昭和42年10月27日民集21巻8号216頁)ここでは、解除そのものがされている必要はなく、解除に至るべき双務契約という原因関係を、「対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由」(468条1項)と考えることになります。

すなわち、債権譲渡通知を受けるまでに、抗弁事由が具体的に発生していたことは不要で、抗弁事由の発生の基礎があれば足り、その基礎についても、抗弁事由の発生する一般的・抽象的可能性としての基礎が発生していれば足りると解されます。

契約解除への合理的な期待

上記のように解される理由は、債権譲渡の対抗要件具備時までに解除権の発生原因というべき契約が締結されていれば、解除権が既に生じている場合と同様、契約を解除することに合理的な期待が譲渡債権の債務者にあると評価されたことにあります。

ここで、期待の合理性は、最判昭和42年では、報酬支払債務と仕事完成債務が同一の請負契約に基づく2つの対価関係にある債務であることに求められています。

すなわち、両債務がそのような関係にあればこそ、譲渡された報酬支払債権のⓐ債務者は、同一の契約から既に生じていた反対債務の仕事完成債務が履行されなければ自らの報酬支払債務も履行しないで済むように請負契約を将来いつでも解除することができると期待することが合理的であるし、逆にⓑ譲受人も、自らの譲り受けた報酬支払債権は既に生じている反対債務の仕事完成債務が履行されなければ契約が将来解除されて消滅すると覚悟すべきであると評価されました*10

相殺について

上記の「原因」を基礎とする最判昭和42年判決の論理は、「前の原因」による相殺の拡張を定める改正民法469条2項1号・511条2項の論理としても有効です。

すなわち、同判決は、実際は注文者が異議をとどめない承諾*11をした事案でしたが、債権譲渡の通知により承継される抗弁*12と同じ前提で判断を下しており、その内容は、改正法にて債務者の抗弁(改正民法468条1項の「譲渡人に生じた事由」)の一般的な解釈を示したとされています*13

  1. 対抗要件具備時より前に債務者が取得した債権(469条1項)
  2. 対抗要件具備時より「前の原因」に基づいて生じた債権(469条2項1号)
  3. 譲受人の取得した債権の発生原因である契約」に基づいて生じた債権(469条2項2号)

上記の債権については、債務者は、当該債権による相殺をもって譲受人に対抗できるとしました(改正民法469条1項、2項本文)。もっとも、469条2項1号・2号の債権については、債務者は、対抗要件具備時より後に他人から取得したときは、相殺をもって譲受人に対抗することはできないとされています(同条2項ただし書)。

民法469条2項ただし書の趣旨は、対抗要件具備時より後に他人から取得した債権による相殺がされる場面では、対抗要件備前に譲渡人・債務者間で相殺への合理的な期待利益を認めることができないから、このような債権を自働債権とすることを認めないとしたものです*14

集合債権譲渡担保について

債権の譲渡の有効性が問題となる場面として、将来債権の譲渡が挙げられます。改正民法466条の6では、1項と2項において、将来債権が譲渡可能であること譲渡された将来債権は譲受人が当然に取得すると規定してします。包括的に譲渡の合意をしておけば、個別の債権が成立したごとに譲渡の合意をする必要はなく、当然に譲渡の効力が生ずることになります*15

将来債権の譲渡については、集合債権譲渡担保契約において問題となりますので、以下、整理して行きます。

まず、債権譲渡担保とは、債務者が第三債務者に対して有する金銭債権を担保目的で債権者に譲渡し、債務者が債務不履行に陥ったときに、債権者が譲り受けた債権を行使して、自らの債務者に対する債権を回収する方法です*16

次に、集合債権譲渡担保とは、取引相手方に融資をするに当たり、相手方が取引活動の過程において取得する、一定の識別基準で範囲を画される既発生、未発生の多数債権の債権群(集合債権)を、債権譲渡という形式を用いて担保化するという非典型担保です*17

金融実務においては、これら集合債権を担保に供するという方法への需要が強く、特に、消費者金融会社、リース会社、信販会社等、顧客に対する指名債権を主要資産とする企業の資金調達や、商社取引においては、担保として資金を調達し、個々の債権の回収金をそのまま事業資金として使用するという集合債権譲渡担保の有用性、必要性は高いです。

集合債権譲渡担保には、予約型本契約型の2つの形態があり、予約型はさらに停止条件型と予約完結型に分かれます。

  1. 予約型
    譲渡担保契約時に債権譲渡の効果は生じず、債務者に支払停止や破産手続開始決定の申立てなどの一定事由が生じた場合に債権譲渡の効果が発生するという形態
    (1) 停止条件型:上記の一定事由の発生を停止条件として債権譲渡の効果が生じる
    (2) 予約完結型:契約締結時に譲渡の予約だけして、上記の一定事由が生じた時に債権者が予約完結権を行使して債権譲渡の効果を発生させる。

  2. 本契約型
    譲渡担保契約と同時に債権譲渡の効果を発生させるが、設定者(債務者)に信用不安や経営悪化が生じて債権者(譲渡担保権者)が第三債務者に譲渡担保権実行の通知をするまで、債権取立ての権限が付与されているもの

集合債権譲渡担保については、金融取引社会の進展・変容に伴って生成・発展してきた担保手段であるので、この譲渡担保が対象とする債権の特定性、対抗要件の具備の方法およびその効力などに関して、判例が重要な役割を果たしていました*18

将来債権の譲渡について

改正民法466条の6は、将来債権の譲渡(担保)は有効であることを前提としていることは、上述の通りです。

将来債権の譲渡の有効性については、目的債権が他の債権から識別できる程度に特定債権の発生原因内容始期と終期などによる)されていれば,有効であり,将来の当該債権の発生の可能性の高さは債権譲渡の効力に影響を及ぼさないとしています(最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁)。この判例は現在においても妥当するものといえます。

また、将来債権の譲渡ないしそれを含む集合債権譲渡担保につき、目的債権の移転時期が譲渡または譲渡担保設定契約時(契約時移転説)か、目的債権の具体的発生時(債権発生時移転説)が判例・学説上争われていました。

判例は、将来債権の譲渡担保と国税徴収法24条に基づく譲渡担保権者の物的納税責任との関係が問題となった事案について、契約時移転説を採用するものとされています(最判平成19年2月15日民集61巻1号243頁)。当該事案における争点は、下記の通りです。

  • 債権譲渡と物的納税責任の優劣は、債権譲渡の対抗要件具備と国税の法定納期限との先後で決するか
  • 対抗要件具備が先でも法定納期限到来後に将来債権が発生した場合には、なお国税が優先するのか

最高裁は、「将来発生すべき債権を目的とすることは譲渡の目的とされる債権が特定されている限り、原則として有効なものである」ことを前提に、「将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保契約が締結された場合には、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り、譲渡担保の目的とされた債権は譲渡担保契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡されているのであり、この場合において、譲渡担保の目的とされた債権が将来発生したときには、譲渡担保権者は、譲渡担保設定者の特段の行為を要することなく当然に、当該債権を担保の目的で取得することができるものである。」とし、対抗要件具備も可能であるとしています。

また「国税の法定納付期限等以前に、将来発生すべき債権を目的として、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され、その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には、その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には、譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限の到来後に発生したとしても、当該債権は『国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている』ものに該当する」として、対抗要件具備と法定納期限の先後で優劣を決するとしました。

取立委任特約付きの将来債権譲渡担保契約について

集合債権譲渡担保には、予約型と本契約型があることは既に述べた通りです。本契約型では、契約締結時に通知等がなされただけで、債権者との合意で債権の取立権限が設定者に付与されている場合に譲渡担保の実行時にあらためて通知等を要するか否かが問題となった事案があります。

判例は、そのような事案において、全体として譲渡担保であることが明らかであれば(第三債務者は通知等により債権帰属の確定的変動を認識し得るから)、契約時の通知による第三者による第三者対抗要件の効果を妨げるものではないとします(最判平成13年11月22日民集55巻6号1056頁)。本判決の調査官解説は、取立委任の内部的合意があることが「契約時に確定的に債権を移転させる債権譲渡契約であることと矛盾するものではない」としています。

また、取立委任特約付きの将来債権譲渡担保契約がされた場合でも,将来債権譲渡対抗要件は、譲渡契約時に具備されていればよいとされています。

なお予約型においては、ゴルフ会員権の譲渡予約の事案において、第三債務者は、予約時に通知等がなされても予約完結権行使により債権帰属が将来変更される可能性を了知するにとどまり、当該債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではないから、予約完結権行使時以降にあらためて対抗要件具備が必要になるとしています(最判平成13年11月27日民集55巻6号1090頁)。

三者対抗要件について

債権譲渡、特に集合債権譲渡担保設定にかかる第三者対抗要件を備えるためには、確定日付のある証書による通知又は承諾(467条2項)か動産債権譲渡特例法4条1項の登記によることができます。

債権の譲受人から請求を受けた債務者が、債権を二重に譲り受けた第三者があり、譲受人が第三者対抗要件を具備していないことを主張して弁済を拒絶するために主張立証しなければならない要件事実は、以下の通りです。

  1. 三者の譲渡人からの債権取得原因事実
  2. ⑴ 譲渡人から第三者への債権譲渡につき、それ以後に譲渡人が債務者に対し譲渡の通知をした事実 or 
    ⑵ 譲渡人から第三者への債権譲渡につき、債務者が譲渡人もしくは第三者に対し承諾した事実
  3. 譲渡人から譲受人への債権譲渡につき、譲渡人が確定日付ある証書による譲渡の通知をし、もしくは債務者が確定日付ある証書によって証書による承諾をしない限り、譲受人を債権者と認めない 

なお、 債権が二重に譲渡され、いずれについても確定日付のある証書による通知がなされた場合の二重譲受人相互の優劣の決定基準については、確定日付のある通知が債務者に到達した日時の先後が二重譲受人相互の優劣の決定基準となる(到達時説)と解されています(最判昭和49年3月7日民集28巻2号174頁)。

いずれの譲渡通知も債務者に到達したが、その到達の先後関係が不明であるためにその相互間の優劣を決することができない場合は、各通知が同時に債務者に到達した場合と同様に扱うべきとされています(最判平成5年3月30日民集47巻4号3334頁)。

受領権者としての外観を有する者に対する弁済

民法478条は、受領権者以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有する者に対してした弁済は、弁済者が善意かつ無過失であるときに限り、これを有効とします。

債権が二重譲渡された場合の対抗関係において、劣後譲受人がこのようなケースに該当するかは争いがあります。これについて、民法467条2項の規定は、債務者の劣後譲受人に対する弁済の効力についてまで定めているものとはいえず、その弁済の効力は、債権の消滅に関する民法の規定によって決すべきものであるから、二重に譲渡された債権の債務者が、同項所定の対抗要件を具備した他の譲受人より後にこれを具備した譲受人に対してした弁済についても、同法478条の規定の適用があるものと解すべきとした判例があります(最判昭和61年4月11日民集40巻3号558頁)。

また、債務者が劣後譲受人に対する弁済につき無過失であったといえるためには、優先譲受人の債権譲受行為又は対抗要件に瑕疵があるためその効力を生じないと誤信してもやむを得ない事情があるなど劣後譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当の理由があることが必要であるとされています。このため、債務者は、相当の理由があるとの評価を根拠づける具体的事実を主張しなくてはなりません。

終わりに

今回は債権譲渡の問題に関連する論点を扱いましたが、債権法から担保物権法に至るまで扱うことになり、かなりの分量になってしまいました。

判例のロジックを理解するにあたり、実務で運用されている実態などの背景事情に触れることで、判旨を眺めている状態から当事者的な視点を持ったアプローチができるのではないかと感じた次第です。

本記事は、かなり駆け足で書いてしまいましたので、今後も随時加筆・修正していこうと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。質問・感想・意見等がございましたら、twitter @Daisuke12A11 までお願いします。

*1:奥田昌道『債権総論』509頁(悠々社・増補版, 1992)

*2:平野裕之『コア・テキスト 民法Ⅳ 債権総論 第2版』286頁(新世社, 2017)

*3:村田渉・山野目章夫『要件事実論30講〔第4版〕』427頁(弘文堂, 2018)

*4:白石大「◆特集 民法の重要論点を解きほぐす Ⅲ 債権譲渡制限特約を譲受人に対抗しうる場合の法律関係」法教478号18頁(2020, 有斐閣

*5:従来の判例も、債権譲渡禁止特約について悪意の譲受人等の第三者には対抗できるとし、債務者が当該第三者の悪意について主張・立証責任を負うと解していました(大判明治38年2月28日民録11輯278頁)。この辺りの解釈は、改正民法466条2項でも同様です。

*6:譲渡制限特約による履行拒絶の抗弁は権利抗弁であると解されるから、権利主張することを要する。

*7:民法177条等における対抗要件に関する要件事実、主張立証責任の所在については、第三者の側でⓐ対抗要件の欠缺を主張し得る正当な利益を有する第三者であることを主張立証し、かつ、ⓑ対抗要件の有無を問題として指摘し、これを争うとの権利主張を要すると解すべきであるとする説

*8:平野・前掲注2) 296頁

*9:改正前民法468条2項

*10:三枝健治「◆講座 ケースで考える債権法改正〔第3回〕 相殺――「前の原因」による相殺の拡張」法教465号86頁(2019, 有斐閣

*11:改正前民法468条1項の「譲渡人に対抗することができた事由」

*12:改正前同468条2項の「譲渡人に対して生じた事由」

*13:三枝・前掲注10) 87頁

*14:村田・前掲注3) 444頁

*15:平野・前掲注2) 288頁

*16:後藤巻則ほか『プロセス講義民法Ⅲ 担保物権』183頁(信山社, 2015)

*17:三村晶子「判解」最判解民事篇平成13年度 681頁, 688頁(2001)

*18:後藤・前掲注16) 184頁