平成30年度予備試験民事系第2問振り返り

はじめに

お久しぶりです。かなり久しぶりの更新になってしまいましたが、アウトプット記事の更新になります。

今回は、平成30年度予備試験民事系第2問の整理です。まずは、全体の出題趣旨から。

本問は,株主提案権の行使要件と新株発行による総議決権数の変動との関係及び
利益相反取引(直接取引)に基づく取締役の任務懈怠責任と責任限定契約との関係
を問うものである。

本問の内容は、株主総会と取締役の責任が問題となっています。以下、最初に事案の整理から行っていきます。

事実の概要

1段落目

この段落では、甲株式会社(以下「甲社」という)の性質について述べられています。公開会社(会社法2条5号)であり、かつ、監査等委員会設置会社(2条11号の2)であるとされています。また公開会社であれば、取締役会の設置が義務付けられます(327条1項)。なお、監査等委員会設置会社であるという点が本設問においてポイントになりますので、チェックしておきましょう。

次に、甲社は上場準備を進めていること、発行株式の単元数(1単元=100株)、単元未満株主及び議決権を行使できない株主が存在しないことが読み取れます。

2段落目

この段落では、甲社の定款に関する内容が述べられています。監査等委員会の取締役について3~5人としています。監査等委員会に関する条文がすぐに出てこない場合は、目次から確認しましょう。

監査等委員会は株式会社の機関なので、第四章に条文があります。第九節の二に規定があります。この節の最初の条文である399条の2には、第2項で「監査等委員は取締役でなければならない」としてあることから、定款では監査等委員を務める取締役を定めていることが分かります。監査等委員である取締役は、3人以上かつ過半数社外取締役でなければならないところ(331条6項)、Aは社内取締役、B・Cは社外取締役として監査等委員を構成しています。

その次に述べられているのは、事業年度・議決権を行使できる株主についての内容です。これらの内容は、世間一般の上場会社と同じような仕組みになっています。

3段落目

この段落では、監査等委員を務める取締役(399条の2第2項)の構成について述べられています。3名(A・B・C)いて2名は社外取締役(B・C)であるということを把握しておきましょう。

4段落目

この段落から、Dという人物が出てきます。Dは、甲社の株式1万株を有する株主として株主名簿に記載されています。

Dは、監査等委員である取締役を選任するための株主提案をしようとしています。Dは、平成29年4月10日に後者の代表取締役Eに対して株主提案権を行使しています。本問では、株主総会の目的(以下「議題」という)と議案の要領が問題となります。

  • 議題:監査等委員である取締役の選任
  • 議案:公認会計士Fを監査等委員である取締役に選任する

5段落目

この段落では、甲社による新株発行がなされています。取締役会の承認があることといった手続面の正当性や、発行数、払込金額、引受け人となった者(今回は丙社)などの取引状況は把握しておきましょう。

6段落目

この段落では、設問1で問題となる事実が記載されています。平成29年6月29日に開催した定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)の招集通知に、4段落で述べた議題及び議案の要領を記載していなかったことが判明します。

7段落目

次に、設問2の内容となる第7段落以降を見ていきます。甲社は監査等委員会設置会社(2条の11の2)であり、Bはその取締役です。そしてBが取締役として受け取る報酬の年額は600万円です。こうした数字はしっかりチェックしておきましょう。

またBは、監査等委員である取締役に就任するに当たって、定款の定めに基づいて責任限定契約を締結しています。その内容としては、会社法423条第1項の責任(任務懈怠責任)について、善意かつ重大な過失がないときは同法425条第1項の最低限度額となるものです。

8段落目

この段落では、甲社と丁社の取引について言及がされています。トラックの駐車場用地として利用するために、甲社が丁社が保有する土地を賃貸借する契約を締結しています。

ここで問題なのは、賃料を周辺相場の2倍というかなり高額なものを支払っている点です。詳細は、設問2の検討で述べます。

〔設問1〕

6段落目までの内容を受けて設問1に入ります。設問1は、株主Dから上記4の請求を受けた甲社が本件株主総会の招集通知に上記4の議題及び議案の要領を記載しなかったことの当否を問うものです。

本設問の要点は、出題趣旨によれば以下の通りです。

設問1は,公開会社かつ取締役会設置会社であって単元株式制度を採用している
株式会社における株主提案権(議題提案権(会社法第303条及び議案要領通知
請求権(同法第305条))の行使要件を指摘した上で,どの時点で議決権保有
件を充足する必要があるかを検討しなければならない。

今回問題となっているのは、株主総会の招集通知に議題及び議案の要領を記載しなかったことです。この当否を検討するにあたっては、株主提案権の行使要件を定めた条文を指摘する必要があります。

株主提案権について

設問1で問題となっているのは、株主提案権です。株主提案権とは、会社が株主総会を招集する機会を利用して株主が自らの考えを株主総会に提案することです*1。株主提案権には、⒜議題提案権(303条)、⒝議案提案権、⒞議案要領通知請求権(305条)があります。

本設問では、議題提案権(303条)と議案要領通知請求権(305条)が問題となっているので、Dの株主提案権の行使についてその要件を充足していたか否かを検討していきます。

303条は括弧書きが多いですが、その内容は必要に応じて追って言及することにして、まずは本文を読んでいきます(漢数字は、便宜上算用数字に変えてます)。

  • 「株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる」(1項)
  • 「前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分1以上の議決権又は300個以上の議決権を6箇月前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の8週間前までにしなければならない」(2項)
    →この要件は、公開会社である取締役会設置会社(327条1項参照)の場合に課せられるものです*2取締役会設置会社ではない会社では単独株主権(=1株でも株式を保有する株主であれば行使できる権利)であり、また行使の時期について特に定めはないことになります。

株主提案権(303条)の行使に必要な要件のうち、「総株主の議決権の100分の1以上の議決権」と「300個以上の議決権」は「又は」で列挙されているので、どちらかを充たしていれば保有要件は満たしていることになります。

これに対し、議案提案権(304条)については取締役会設置会社であっても保有期間制限はありません。併せて条文を確認しておきましょう。

ここで、招集通知との関連で注意しなければならないことがあります。招集通知については、299条4項で「前二項の通知には、前条第1項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない」とされています。

前二項というのは「書面」(299条2項)あるいは「電磁的方法」(299条3項)による招集通知を指します。甲会社は取締役会設置会社なので、書面要件が課されることになります(299条2項2号)。また298条1項各号に掲げる事項が招集通知において通知すべき事項となります。

招集通知において通知すべき事項(=招集に際して決定すべき事項)を定めた298条1項を見てみると、2号で「株主総会の目的」を挙げています。このことから、株主総会において話し合われる事項、すなわち議題は招集通知の記載事項となります。

上記より、議題について株主提案権(303条)が適法に行使された場合は、招集通知に載せなくてはならないことになります。

これに対し、議案については招集通知において通知すべき事項とはなっておらず、株主は議案通知請求権(305条)を行使して「議案の要領」を通知することを請求しなければなりません。305条の要件も303条と内容は同じですが、次のようになります。

  • 「株主は、取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知することを請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6箇月前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。」(1項)
    →この要件は、公開会社である取締役会設置会社(327条1項参照)の場合に課せられるものです*3取締役会設置会社ではない会社では単独株主権であり、また行使の時期について特に定めはないことになります。

上記を踏まえ、Dが各要件を満たしているか検討していきます。Dは平成24年から継続して甲社の株式1万株を有する株主です。また甲社の株式は100株を1単元としていることから、Dは100単元有していることになり、その議決権は100個となります。

ここで、甲社の発行済株式総数は100万株であるため、1万株を有するDは「総株主の議決権の100分の1以上の議決権」を有していることになります。また本件株主総会は平成29年6月29日に開催されていることから、Dは「6箇月前から引き続き有する株主」にも該当することになります。

さらに、Dは平成29年4月10日に監査等委員である取締役の選任という「議題」を提案し、また公認会計士Fを監査等委員である取締役にする旨の「議案の要領」を招集通知に記載することを請求しています。これらはいずれも「株主総会の日の8週間前」(303条2項、305条1項)までに行われています。

したがって、Dの株主提案権(303条)及び議案通知請求権(305条)はいずれも適法に行使されたといえそうですが、一つ問題があります。

5段落目にありましたように、平成29年5月8日に20万株の新株発行を行っています。またこの20万株について、同月29日に開催される定時株主総会において議決権行使できるとされています。このことから、甲社の発行済株式総数は120万株となり、株主提案権行使時点においては保有要件(100分の1)を充たすDが、株主総会時点においては保有要件を満たしていないことになります。

そのようなDが行使した株主提案権に基づく議題及び議案の要領を招集通知に記載しなかった甲社の対応の適法性が問題となります。

基準日(124条)について

本問において、新株発行は基準日(後になされています。今回の事例では、基準日後に新株発行を行った場合ですが、仮にDが基準日後に株式の譲渡を行って保有要件を充たさなくなった場合にも同様の問題が生じます。

基準日は、株主総会で議決権を行使したり、剰余金配当を受けたりするなど、株主としての権利を行使できる者を確定するための方法として用意された制度です*4

基準日については、①基準日および②基準日株主が行使することができる権利の内容を定めた上で、当該基準日の2週間前までに、①②の事項を公告する必要があります(124条3項)。

本問では、事業年度の最終日である3月31日の最終の株主名簿に記載されている者が、基準日株主としてその事業年度に関する定時株主総会で議決権を行使できるとされているので3月31日が基準日となります。

基準日制度は、会社が一定の日(基準日)を定めた上で、その基準日における株主名簿上の株主(基準日株主)を株主として扱えば足りるとすることで、会社の事務処理の便宜を図った制度です。基準日株主がすでに株式を譲渡していても、株主として議決権行使をすることが認められることになります。

なお、基準日後に株主となった者についても、会社の判断によって議決権を行使させることは認められています(124条4項)。もっとも、ただし書において「基準日株主の権利」を害することはできないとされています。

事案の解決としては、124条4項ただし書に基づき、そもそも新株発行によって保有要件を充たさなくなり株主提案権を行使できなくなる株主が出てくること自体、「基準日株主の権利」を害することだと捉える考え方があります。

そうすると、甲社が丙社に議決権行使を認めた決定は違法であり、丙社は議決権行使をすることができず、Dは本件株主総会時点で引き続き議決権行使をできる株主であると捉えることになります。その結果、Dの株主提案権行使は保有要件を充たし続けていることになります。

もう一つの考え方としては、Dは基準日に株主名簿に記載されていれば、株主総会で議決権を行使できるのであれば、議決権のための権利行使(株主提案権など)の適法性も基準時(もしくは権利行使時)で判断するというものがあります。基準時 or 権利行使時において保有要件を充たしていれば、会社側は適法に行使された株主提案権に基づく招集通知への議題・議案の要領を記載しなくてはならないことになります。

本問において、Dは株主提案権行使時点で保有要件を充たしているので、それ以降に保有要件を充たさなくなっても甲社は本件株主総会の招集通知に議題・議案の要領を通知しなくてはならなかったことになります。

結論としては、甲社は、本件株主総会の招集通知に議題・議案の要領を通知すべきであったといえ、これを怠った甲社には招集手続の法令違反(831条1項1号)が認められ本件株主総会の取消事由が認められることになります。

〔設問2〕

利益相反取引について

本問で問題なのは、利益相反取引(356条1項)となります。今回は、同項1号の「取締役が自己又は第三者のために」行った直接取引たる利益相反取引となります。この帰結は、いわゆる名義説に基づくものです。例えば、取締役が直接の取引相手になっている場合や、取締役が取引先の会社の代表取締役を務めているような場合が挙げられます。

「ために」の文言の解釈として、第三者のために取引できるのは当該会社の代表取締役しかいません。自分名義で取引できるのは自分自身しかいません。

本件では、甲社の取締役がBが、自ら持分を全て有する「第三者」たる丁社の「ために」代表取締役として本件賃貸借契約を締結しているので、直接取引たる利益相反取引に該当します(356条1項1号)。この賃貸借契約を締結した結果、甲社は丁社に対し、平成29年7月1日から平成30年6月30日まで毎月300万円の賃料を支払い続けたことになります。

賃料相場は150万円であったところを300万円支払っていたので、超過額の150万円が月々の損害となり、これを12ヶ月分ということで1800万円の損害が甲社に生じたと言えます。

したがって、Bが行った直接取引たる利益相反取引について、任務懈怠が推定されることになります(423条3項1号)。

ここで、甲社は監査等委員会設置会社ですので、423条4項も指摘しましょう。この条文では、監査等委員でない取締役が「監査等委員会の承認を受けたとき」は適用しないとしています。本件のBは、監査等委員である取締役ですので423条3項の適用除外はありません。忘れずに指摘しましょう。

なお推定を覆すような事情についてですが、駐車場用地の確保が急務であったという事情はあれど、そのような事情に乗じて足元を見て甲社に損害を生じさせているので推定を覆すような事情はありません。

損害額について

次に損害額についてですが、Bが甲社と425条の責任限定契約を締結しています。まずは425条の規定を見てみましょう。最低責任限度額について、425条1項1号は次のように定めています。

  • 「当該役員がその在職中に株式会社から職務執行の対価として受け、又は受けるべき財産上の利益の一年間当たりの額に相当する額として…次のイからハまでに掲げる役員等の区分に応じ、当該イからハまでに定める数を乗じて得た額」
    →イ 代表取締役又は代表執行役 六
    →ロ 代表取締役以外の取締役(業務執行取締役等であるものに限る。)又は代表執行役以外の執行役 四
    →ハ 取締役(イ及びロに掲げるものを除く。)、会計参与、監査役又は会計監査人 二

Bは、代表取締役でも執行役でもない取締役なので、425条1項1号ハに該当します。その結果、1年間あたりの報酬の2倍額、つまり600万×2=1200万円が最低責任限度額となりそうです。

ただ、「自己のために」行った直接取引たる利益反取引を行った取締役の任務懈怠責任(423条1項)は、「当該取締役又は執行役の責めに帰することができない事由によるものであることをもって免れることができない。」とされています。先の利益相反取引の事実認定で「自己のために」と認定していた場合は、428条1項が適用されることになります。

責任限定契約(427条1項)について

本件の直接取引たる利益相反取引が「第三者のために」なされた場合であれば、428条は適用されません。責任限定契約について定めた427条1項の検討になります。

本件の事案について、Bは「職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない」(427条1項)といえるでしょうか。仮に善意無重過失であるならば、Bの任務懈怠責任は、責任限定契約により425条1項1号ハに規定する額に抑えられることになります。

では、Eとの利益相反取引の際にBは果たして悪意又は重過失であったといえるでしょうか?

EがBに全幅の信頼を置いた結果、Bによって周辺の相場の2倍の賃料を(Bが全て持分を有する)丁社に払ったのは事実ですが、本件賃貸借契約締結時におけるBの内心や不注意をうかがわせる事情は記されておりません。

ここで、問題文の事情として「甲社の代表取締役Eは・・・賃料の決定に際して・・・Bの意向を尊重する姿勢をとっていた」「本件賃貸借契約の賃料は周辺の相場の2倍というかなり高額なものであった」とあります。

もっとも、このことからBがEとの契約時において、賃料相場の2倍で売却することについて悪意であったとまでは言い切れないと思われます。なぜなら、本件賃貸借の契約態様についての事実について触れているだけであって、Bが相場価格と偽って売ったわけでもなく、騙す意図があったと書かれているわけでもないからです。

通常、賃貸借契約を当事者の双方がどちらも相場賃料を知らずに締結するとは考えにくいですが、本問の問題文からBの意図についてまでは読み取り難いと考えました。

したがって、本件において、Bは責任限定契約に基づいて最低責任限度額額である1200万円について損害賠償義務を負うことになります。

終わりに

今回は久しぶりの更新で商法の予備試験問題についてまとめました。商法の試験では(他の科目もそうかもしれませんが)基本的な用語・概念の理解と条文捜査がかなり重要であることを改めて実感しました。また事案の解決に際して、方向性が別れることもあるので、試験の場で素早く結論を判断できるよう、今後も演習を重ねていきたく思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。質問・感想・意見等がございましたら、twitter@ Daisuke_12A11 までお願いします。

*1:高橋美加ほか『会社法〔第3版〕』(2020, 弘文堂)

*2:非公開会社では、保有期間制限はない:303条3項

*3:非公開会社では、保有期間制限はない:305条2項

*4:高橋美加ほか『会社法[第3版]』70頁(2020, 弘文堂)