令和元年司法試験公法系第1問

はじめに

司法試験合格を目指すにあたり、何よりも重要なのが過去問演習。ということで、今回は令和元年度*1を解きました。

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解いた後で重要となってくると思われるのが、出題趣旨や採点実感を通した問題の所在の把握自分の構成・起案が出題者が求める正しい方向に向いているか自分の見解を裏付け根拠づける知識・判例の見解が答案に出せる形で覚えているかなどの点検が挙げられます。

上記の点は、出題趣旨や採点実感でも度々指摘されているところなので、過去問を解く際には出来ていなかったところを分析し、できるようになるための方法を検討して実践し、再度挑戦するところまでを繰り返し行います。

以下では、出題趣旨・採点実感を分析するとともに、自身の課題を洗い直したいと思います。

出題趣旨について

出題趣旨で最初に気になったのは、次の点です。以下、引用。

フェイク・ニュースは、各国で様々な課題を生じ、対応が模索されている現代的な問題であり、新たな技術的な展開が事態を深刻化させている側面がある現象である。しかし、その規制は、内容規制という古典的な表現の自由の問題であり、また、本問の規制は、表現の削除という強力な制限の問題である。表現の自由の保障の意義という基本に立ち返った検討が求められる。

上記部分からは、現代的な問題であっても、紐解いていけば従前から存在する問題であるということが読み取れます。表現の自由に関連する問題において、内容規制というのは内容それ自体に対する規制ということもあり強めの制約であることが推認されます。また、表現の削除は、表現の自由市場から強制退場させる行為であるので、制約はかなり強いものであると予想されます。

このように、問題文で扱うテーマを学習してきた典型論点に落とし込んで考えることが求められているといえます(これは全科目に言えそうです)。その際に、本問のように表現の規制対象、規制態様が問題となる場合は、表現の自由がなぜ保障されているのか、といった権利の存在意義に立ち返った検討が求められることになります。

次に、本問の詳細な検討について触れたいと思いますが、この辺りは、以下の採点実感と併せてまとめていきます。

採点実感について

採点実感の全文については、上記HPからご覧いただきたいところですが、本記事でも要約する形でまとめていきます。

本年度の採点実感は、「第1 総論」で受験生の答案について全体のフィードバックを行っています。次に、「第2 表現の自由の基本的論述等について」で表現の自由の論点に対する理解、規制立法が存在するので明確性や過度広範性といった論点について言及しています。「第3 各立法措置に関する論述」では、本問で問われている立法措置①、立法措置②について受験生が合憲性をどう論じたかを振り返っています。最後に、「第4 形式面での注意点について」では、内容面ではなく、その表現形式について注意喚起を行っている。法律の条文を正確に(~条の~項だったり、柱書だったり、但書だったり)適示することや、読み手を意識した構成の必要性を説いています。

以下では、各部分について、自分の答案・思考過程も振り返りながら課題とその対応方法を検討していきます。

第1 総論

採点実感では、最初に「出題の趣旨に即した論述の必要性」を述べています。このことから、出題者の作問意図を分析して論述をすることが非常に重要であることがわかります。また"昨年と同様"という表現を使っている辺り、近年の傾向として「法律の制定に当たり法律かとして助言を行う」というシチュエーションが出題傾向にあることが分かります。そして、そのような問題で出題者がが求めているのは「法律家としての自らの見解を十分に展開する中で、必要に応じて、自らの見解と異なる立場に触れる形で論述をすること」が挙げられています。この点については、法的な見解を、反対の意見・立場を踏まえた上で説得的に論じることであると理解しています。

次に、本問を解く流れを述べています。問題となっている自由ないし権利について、①「表現の自由」として憲法の保障が及ぶかどうか、②制約があることを論じつつ違憲審査基準を設定し、③違憲審査基準の当てはめを行うという憲法問題に対するオーソドックスな処理となっています。

もっとも、ここで苦言を呈されている点として具体的検討が不十分・不適切である点や、条文の読解力が不十分である点が挙げられる。

条文の読解は法律家としての基本的な能力の一つであり、それができないのでは議論の前提となる規制内容が理解できていないこととなってしまう。学習の中で、条文を素読する力を身に付けて欲しい

本問で問題となる仮想の法案について、何をどう規制しようとしているのかについて、理解を誤るとそこから先の議論の前提がズレてしまうことになると考えます。

次に、論述内容全般について、他の教科にも応用できそうなことを述べています。

明確性の原則」の機械的な適用や、「検閲」「事前規制」の文言を使っての機械的な当てはめなど、目の前の具体的な素材について考察しないまま、不正確に概念を適用する答案が相当数あった。また、「内容規制」「内容中立規制」「事前規制」「事後規制」「間接的・付随的規制」など、基本的な概念について、不正確な理解に基づく論述をしている答案も相当数認められた。

上記内容のうち、機械的な適用だったり、具体的な素材について考察という表現が目を引きます。概念や判例は、覚えた内容を吐き出すだけではなく事案に応じて解釈・検討が求められていることが分かります。もっとも、覚えきれてない概念は正確な理解・暗記が必要になります。なお、私は構成段階で検閲該当性に飛びついてしまったので、下線部の内容はよく聞いていましたが、実際の問題では対応しきれていないことが露呈しました。

違憲審査基準の恣意的な設定をしている答案があるが、審査基準の設定にあたっては、どうしてその審査基準を用いるのかを意識して、説得的に論じるようにして欲しい。

判断は、それに至った理由が大事。はっきりわかんだね。

厳しい基準を立てても具体的な検討で緩やかにしてしまっては、厳しい基準を立てることの意味が希薄になってしまうように思われる。日頃から、具体的な事例を学ぶ中で、基準の設定と具体的な検討を行い、整理しておくことが望ましい

日頃の学習を振り返るに、基準の設定と具体的な検討を行うことが欠けていたと思いますので、この点を意識して勉強→再度過去問の流れを確立します。

設問の「自己の見解と異なる立場に対して反論する必要があると考える場合は、それについて論じる」との求めを適切に踏まえ、自己の見解を述べる中で、異なる立場を取り上げつつこれに説得的に反論している答案は高く評価された。

自己の見解を述べつつ、異なる立場を取りこみつつ、説得的に反論することが述べられていますが、要はその流れを論理的に明快にするよう構成段階で求められているものと思います。

最後に関連する判例への言及について述べて、総論部分を終えています。判例は正確に引用した上で、本問の事例と区別できるか(=射程が及ぶかどうか)を検討した上で、自らの見解を基礎づけるために引用するものであることを覚えておきます。

第2 表現の自由の基本的論述等について

表現の自由と虚偽表現の論点について

最初に、気になった点としては、次の点である。

フェイク・ニュースの問題性を認識することと、それをいかに規制し得るかは別の問題であり、規制の合憲性については、より慎重な検討が欲しかったところである。

一見、虚偽表現はそもそも保障範囲外であったり低価値であることが想起されます。しかし、安易に規制対象としていいかについて法的視点から慎重な検討が必要だと述べているのではないでしょうか。冒頭でも述べた通り、内容それ自体に対する削除という強度の規制がなされているわけですから、法律家として慎重に検討を要すると考えます。

この点について、私の構成では、規制の対象・態様については言及していましたが、実際に合憲性を検討する場面で、自己の見解を述べるおいて判例の見解を適切に引用できていませんでした。覚えるべき点は理解した上で暗記し、実際に具体的な検討を行うという日頃の学習を地道に繰り返す必要があると感じました

また、「虚偽表現の自由」の制約として論ずるのは、論じ方として不適切であるとの指摘があります。その上で、問題となるのは「表現の自由」であり、「虚偽の事実を流布する」ことが表現の自由として保障されるか、という観点で論ずるよう指摘しています。「~の自由」として保障されるかを論じる際には、「~の自由」という形は崩さずに、具体的にどういった行為・態様を保障の対象として論じているのかを明らかにしたうえで、当該行為が「~の自由」として保障されるか、を問題にすべきだと思いました。形を崩さないようにするという点は、意識できていなかったです。

明確性や過度広範性の論点について

上記論点は、単体で意識しつつも、実際の問題では意識しきれないことがあります。法令の合憲性が問題になるなら、少なからず問題にはなると思いますが。

明確性の原則機械的に適用している点については上述の通りですが、さらに本問に即した指摘として、以下の内容が挙げられます。

明確性の観点から、「虚偽」の要件の適用がもたらし得る問題について全く検討しない答案が相当数あったが、本問の特質は、「虚偽」の判断が恣意的になる危険性であり、その委縮効果に着目すれば、やはり「虚偽表現」の明確性について丁寧に論じるべきであろう。

上記の点については、『憲法判例の射程[第2版]』(弘文堂, 2020)にも現れています。主な点は、次の4点である*2

  1. 法令の不明確性と過度広範性は区別して主張する。
    →法令が不明確であるために規制範囲が過度広範に及ぶなど。
  2. 法令の条項について、問題となる規定の文言を特定して主張を展開する。
    →漫然と不明確性および過度広範性を主張してはならない。
  3. 主張を展開する際は、法制度の具体的な立て付けを踏まえて、当該文言の漠然性・過度広範性がもたらし得る問題について具体的に説明する。
    →当該文言の不明確性によって表現の自由に関する領域において公権力が恣意的に行使される危険性が生じており、委縮効果の発生が懸念されるなど
  4. 不明確性や過度広範性が問題となる文言については、合憲限定解釈の可否を検討すべきである
    →その際には、憲法論(目的手段・衡量審査等)と法律論(法令の文言・趣旨目的・対系統に照らした解釈)の双方が視野に入る。

このように、採点実感の内容がテキストレベルで落とし込まれるということは、それだけ重要な内容であることが伺えます。今後も法令の文言に関して不明確性と過度広範性を扱う機会は多いと思われますので、この辺りを理解して覚える必要があります。

過去問を解いて出題趣旨・採点実感を読み込むことで、既に手元にあるテキストの読み方も変わってくるのではないかと思いました。

第3 各立法措置に関する論述

本件で問題となっている立法措置は、立法措置①と立法措置②と分けられているのもあり、区別して論じることは掴めました。

しかし、各措置に対応する規制の対象、内容等について詳しく検討することができていなかったので、本年度の問題は何度か再検討する必要があると感じました。

以下、立法措置①と立法措置②について振り返っていきます。

立法措置①について

立法措置①では、虚偽表現について、対象範囲を限定せずに相当広範囲に定義しているという印象を受けました。また、規制対象も「何人も」という表現を用いていることから、こちらも限定がなされてないと解しました。なお、このような印象を抱くこと自体は間違っていなかったのですが、問題文で現行法の刑法や公職選挙法といった他の法律を引き合いに出していることから、そういった比較対象をも自己の見解に取り込んでこそ、より説得的になったのではないかと思います。虚偽の表現を流布することを一般的に禁止及び処罰してない点について、現行法規と相違点を意識する必要がありますが、その際に意識すべきは5W1Hだと考えます。

本問で引き合いに出された法律は、刑法・公職選挙法ですが、当該法律で誰が(規制の主体)、何を(規制の対象)、どうやって(規制の媒体)規制するのかについて分析できると思いました。5W1H刑事訴訟法では、六何の原則とも呼ばれる)は、広く事例問題を分析する際に意識すべきではないでしょうか。

次に、私が構成をした段階では事前抑制を検討していましたが、この点は見事に間違っていました。事前抑制には、①「検閲」、②「事前規制そのもの」、③「事前規制たる側面を有する」ものという3つの類型があるところ*3、本問における虚偽表現を「一般的に禁止」することは、これらにあたるわけではありません(検討は必要であるが)。

立法措置②について

立法措置②についての指摘で気になった点が早速あります。以下、引用。

 

立法措置②について、発信者の表現の自由SNS事業者の表現の自由の双方を指摘できている答案は少なく、誰の権利が問題となるのかを明確にせずに表現の自由を論じているものがあった。

まさしくこのご指摘の通り、発信者の表現の自由しか検討できていなかったです。表現は、発信する側がいることは大前提なのですが、発信者はSNSというツールを用いて発信するので発信者の表現をSNS上の空間に送り出す事業者が必要になるので、SNS事業者の表現の自由をも考慮すべきなのかなと思いました。

なお、フェイク・ニュース規正法(案)第13条の事業者免責規定から、故意または重大な過失がない限り事業者は免責されることから予防的な過剰削除の危険がある点については気づくことができませんでした。この点は、法令をもとに当事者がどういうアクションを起こすのか、について想像力を働かせるべき場面だったと思います。

他にも、厳しい判断枠組みを立てるべき事案で、選挙の公正という分かりやすい利益のみを取り上げてしまったところがありましたので、判断枠組みの厳しさに応じて相応しい説得的な事実適示を心掛ける必要を感じました。

最後に、手続保障の論点について行政法手続法第3章の適用がされない点について、行政法の勉強が足りておらず検討洩れしていました。弁明の機会(13条1項2号)や理由提示(13条1項)といった行政手続法の規定について目を向けることができていれば、総合衡量の要素として厚い検討ができていたと思われます。

第4 形式面での注意点について

この手の指摘は、毎年、どの科目でも指摘されていると見受けられますので、常に意識していきたいところです。

終わりに

今回の司法試験過去問の検討では、札幌税関事件・北方ジャーナル事件・成田新法事件の判例について、司法試験で問われる形式を意識した読み込みができていなかったことが浮き彫りになりました。

また、明確性・過度広範性についても、憲法判例の射程370頁で本問の採点実感に言及しつつまとめている点を実践できていなかったので、過去問演習の重要さを改めて実感しました。

まだまだ検討が及んでない部分もありますが、今回の過去問演習はこの辺にして基本事項の再確認・事例問題で使える形での暗記に注力したく思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。質問・感想・意見等がございましたら、twitter@Daisuke12A11までお願いします。

 

*1:司法試験のHP上では平成31年扱い。2019年は年度の途中で元号が平成から令和になったので仕方ない。

*2:横大道聡『憲法判例の射程〔第2版〕』370頁(弘文堂, 2015)

*3:横大道・前掲注2) 163頁